海の夕暮れってすっぱいね。人生の味よりすっぱいね。
また夏の一日が終わった。海から帰る時間が来た。
海辺を車へと歩く途中、右肩の方にオレンジ色の月を見た。
オレンジのように丸い月だ。したたたるような潤んだ月だ。
人生の夏が終わった瞬間、涙のしたたるような月を見た。
こうして帰れずポカンとしていると少年のような気持ちになる。
オレンジの月は満月であり、時と共に大きくなる。
スルスルと大きく映る。海の上でいきなり大きくなる。
海は完全に存在している。月はお客様だ。
母胎のような海にポッカリ浮かぶオレンジの月は少年のようだ。
少年時代に帰してくれる野性味溢れる月だ。
いつしか星が点滅する頃、月は普通の月に戻っていた。
僕らは苦笑しながら海を後にした。
青いバラを育てよう。そして青いバラを貴女に贈ろう。
青いバラはクールなオーロラのような色、海底の光のような色。
青いバラは広い海原。航海する船で運んで行こう。
青いバラは海のすべてを掌握する。
青いバラを貴女に贈ろう。
きっと香りがクールで最高の眠りに誘ってくれる。
今夜も、青いバラをベッドに飾ろう。
花びらと貴女の笑顔が永遠の世界に誘ってくれる。
青いバラが世界を変える。想像の扉を開く。愛ある世界へと誘う。
青いバラがすべてを変える。
青いバラと幾度となく訪れる白い波が愛の世界のシンボルとなろう。
僕らは迷い人だ。永遠の迷い人だ。
だからこそ、愛の世界のシンボルの青いバラに涙するのだ。
遠き海原を夢見ながら、今宵も青いバラと共に眠ろう。
僕は白い鯨を信じて来た。結局は裏切られようとも信じて来た。
海へ行く時が来た。太平洋に白い鯨を見つけに行こう。
僕はビッコの足を引きずりながら海路を航海してきた。
船酔いの日も、レモンをかじりながら頑張ってきた。
自分のシャツはいつも汗と潮風で塩をふいている。
もはやイルカやペンギンやゴマアザラシでは満足しない。
僕は白い鯨の全体像が見たい。恐竜大の鯨が見たい。
社会や愛から離れ、孤島に流されるかも知れない。
氷の島に砕かれて凍死するかも知れない。
しかし、ここまで冷たい夜にも耐えてやって来た。
いつしか僕は巨大な白い鯨を見た。氷山も粉砕する凶暴さだ。
けっして優しい世界でなかった。けっして優しい世界でなかった。
僕は跳ね飛ばされた。僕はクジラに飲み込まれた。
これでよかったのか?これは真夏の世の夢なのか?
鯨の胃袋の中には何頭ものトラや野獣も飲まれていた。